eyes0607
春は曙(あけぼの)。やうやう白くなりゆく山際(やまぎわ)、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。夏は夜。月の頃はさらなり、
正月一日は、まいて、空の景色うらうらと珍しく、かすみこめたるに、世にありとある人は、姿容心ことにつくろひ、君をもわが身をも祝ひなどしたるさま、殊(こと)にをかし。

 七日は、雪間の若菜青やかに摘み出でつつ、例はさしもさる物目近からぬ所に もてさわぎ、白馬見んとて、里人は車きよげにしたてて見にゆく。中の御門の 閾ひき入るるほど、頭ども一處にまろびあひて、指櫛も落ち、用意せねば折れなどして、笑ふもまたをかし。左衞門の陣などに、殿上人あまた立ちなどして、舎 人の弓ども取りて、馬ども驚かして笑ふを、僅に見入れたれば、立蔀などの見ゆるに、主殿司、女官などの、行きちがひたるこそをかしけれ。
 いかばかりなる人、九重をかく立ち馴すらんなど思ひやらるる中にも、見るはいと狹きほどにて、舎人が顏のきぬもあらはれ、白きもののゆきつかぬ所は、誠 に黒き庭に雪のむら消えたる心地して、いと見ぐるし。馬のあがり騒ぎたるも恐しく覺ゆれば、引き入られてよくも見やられず。